たまには真面目に編集者っぽくこんにちは、ヨシキです。
「マンガ専科プレ講義『マンガの精読の仕方を学ぶ!〜宇宙兄弟を2時間かけて読む〜』サディ×ネームタンクごとうさん」に出たので、講義内容をシェアします。
動画はどこかにアーカイブされると思うけど、テキスト情報としても要点でおいておくね。あえて書き起こしにはしていないので、ストーリーづくりに興味ある人の参考になれば幸い的な要約です。
*『宇宙兄弟』はラボ内でも熱狂的ファンが多い作品だけど、そこまででもない自分がまとめた要点メモなので、未読の人含め安心して読んでね。
*一応画像貼ってるけど、解説パートみながらコマを確認した方がわかりやすいので、PCとスマホなど2デバイスで読んでもらった方がいいかも。
<宇宙兄弟 第一話>*公式だよ。海賊版利用は悲しむ人が多いからダメ絶対。
http://www.moae.jp/comic/uchukyodai/1
*まるでコルクの人づらして書いてるけど、俺全然関係ないweb編集者だから注意して読んでね。
というわけで、以下シェアですー!
2時間かけて8ページしか到達しなかった、というガチの精読だったよ!
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【元イベント情報】
https://lab.corkagency.com/events/c37abb28c991
【事前情報】
僕=ムッタ、弟=ヒビト
(*第一話精読なので知らなくても読めるのだけど、これだけはわかった方がメモ読みやすいので一応)
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【P.1】
・「ドーハの悲劇」という言葉だけでも本来の情報(ムッタが生まれた年)はわかるが、それだとカッコよすぎる印象になるので、あえて年月日を入れる
・あえて「ピコン」という書き文字を入れることで、情報量を増やす(アニメになった時も、小山先生の演出意図がそのまま反映される)
・「ドーハの悲劇」のテレビ内の描写をしっかり書き込むことで、この作品はリアリティレベルが高い物語であることを伝える(1コマ目ではなく、3コマ目)
・一方でヘソの×を入れることで、全体のテンション(ユーモアのトーンもある)ということを伝える
【P.2】
・しろのパンダのくだりの2コマは、この漫画にユーモアがあることを伝える。(本来なら前項のドーハと同じく、情報だけでいい内容)
実際小山先生は当初「宇宙飛行士モノは真面目になりすぎるから……」と難色を示していたが、これらの演出でそれを解消していくことに。
一方、このシーンはもっと笑わせにいくこともできたが、笑わせすぎると本題(「物語の世界観を伝える」)からずれてしまう。クスッとでもなく、ニヤッとするかどうかぐらいの笑いが「しろのパンダ」だった。
この「ニヤッとぐらいの感情」を感情の波の演出として、小山さんはよく入れている。すごく感動する回でも、先にニヤッとの要素を意図的に入れている。
・野茂や前頁のラモスはそこまでリアルには書き込まれていない。リアルなのはおじさんの顔。それも演出の一環で、おじさんの顔のほうをリアルにすることで、作品の世界観を伝えている。
・最後のヒビトの振り返りは、(ムッタとの対比であるとはいえ、そのムッタの振り返りも含め)構成上は無駄なインサート。これは映画『アメリ』からの影響。
良い作品から影響を受けるのは当然だが、「これは影響なのか、そのまま出てしまっただけなのか」はちゃんと話し合わないといけない。描こうとしている世界なのか、ただの模倣なのか。
一方、のちに閉鎖空間を描いたときは「『度胸星』のパクリ」と言われたが、それは宇宙飛行士を描く上では外せない表現であり、影響や模倣ではない。(=宇宙飛行士モノで、閉鎖空間を描かないはずがないので)
【P.3→P.4(トビラ絵)】
・1コマ目の「12歳」「9歳」は、絵的にかっこ悪いので普通のマンガ家は描きたがらないが、ここは読者の読みやすさを優先であえて。
そういうかっこ悪さを入れつつも、P.4の扉でかっこいい感じの絵を入れることで、「この漫画はユーモアもあるけど、かっこいい漫画なんだな」と伝える
感動やかっこよさはついつい作り込みすぎてしまうが、作品世界を壊しかねないので注意必要
・2コマ目→3コマ目、ジダンが抜いた「度肝」はストレートなものではない(「彼の活躍で優勝した」等ではない)。
だから、この兄弟がこれから抜く「度肝」がどんなものなのかは、この時点ではわからないけど「世界を驚かせる何かをやるぞ」という秀逸な例え。
(マンガなので、ジダンの例が入った以上、ジダン以下のストーリーではないぞという暗示)
・3コマ目の足を写している絵も、本来無くていい(4コマ目とまとめていい)コマだが、「足」を描くことで歩く・探すことを雰囲気で感じさせてくれる。
全体的に『宇宙兄弟』は、表情以外の箇所の表現で、しっかり情報が過不足なく伝わるように意識されている作品。
・ムッタのTシャツ(BUZZのロゴ)に対し、ヒビトが無地なのは個性を表している。P.2のモブの女の子ですらシャツにデザインがあるので、これは意図的な「無地」。
ムッタがヘッドフォンを両手で抑えているのに対し、ヒビトは片手。でも2人ともしっかりと抑えている。「同じところ」と「違うところ」を明確にする。マンガでいえば1コマ、演技でいえば数秒であっても、そこは演技監督として意識しないと絶対ダメなディティール。
【P.5】
・2コマ目も無しで進行上問題ないコマだが、この描写を挟むことで、2人の関係性のようなものが伝わる。表情だと伝わりすぎるし、兄弟間で目線を合図でかわしあうことは普通しない。だからここではこの描写がちょうど良い。
(逆に、バディもの・親友ものだったら、目で演技させた方が良い)
・このP.5以降は、「ジダン以上に世界の度肝を抜く何か」をしようとしている兄弟の説明。
P.4までは「世界観」を文字数少なく濃く伝えるためのパートであり、それ以降は「クイズ」。「何だろう?」「そういうことか」というクイズと答えを、1ページの中で繰り返していくのは演出として非常に重要。
新人だとつい40ページ丸々使って世界観の話を書いてしまうが、『宇宙兄弟』はそれを4ページで止め、後を全部クイズにすることで、作品に引き込んでいる。
【P.6】
・扉絵の次に、(空想など含め)いきなり宇宙とかの話になるのでなく、ちゃんと兄弟で何かを調査をしている。「録音」からやっているという真面目な感じ、「ニホンアマガエルをみてすぐわかる」という勉強している感じ。これらもクイズであると同時に、これから展開される作品のベースを伝えている。
・「キラッ」と光る対象を、夜空ではなく川面で気づくという演出。これはヒビトの観察眼と同時に、ムッタとヒビトの優劣ではなく、ヒビトがたまたま川辺にいたから気づけた、という状況の差でしかないことをあらわしている。
(ヒビトがムッタより優れている、というのはムッタや作品内世界ではベースの印象として一貫しているが、実際の能力差はない、という暗示)
【P.7】
・「ムッちゃん」「日々人(ひびと)」という兄弟間での呼び名しか、この時点ではまだ氏名情報が不明だが、それでも性格の一環は伝わる。
・4コマ目→5コマ目で、コマ間の空白を今までで一番とっている。これにより、時間が経過(移動していること)を表している。
・ここまでアングル的に、ロング→アップ→ロングの繰り返しだったものが、このページではロングのみの描写になっている。
これはこのページをコメディックにしたいから。少し離れた位置から描いて上げることで、わざと感情を伝わりにくくし、コメディックにしている。
ギャグ漫画も見せゴマの顔芸以外は基本はロングで描く。
アップ描写は感情が出すぎてしまい、例えば「やめろよー」とかは、かなりキツい感じになってしまう。
【P.8】
・2コマ目の録音しているコマは、そのページで答えが出るわけではないクイズ。いわゆる伏線。クイズは、短期とそれ以外(伏線)のくり返し。
・1コマ目および5コマ目の2人の表情や姿勢にも、兄弟それぞれのキャラが出ている。(そしておそらくこの姿勢は、実際に誰かにポーズとってもらわないとかけない姿勢でもある)
世界観パートではなく、こういう描写でキャラを説明していくことも重要
・カセットテープは、2006年時点で使うのは本来違和感のある小道具だが、そこは作者のこだわりや好きのお裾分けという部分もある。詳細に描ける小道具きっかけでリアリティを増す。
〜プレ講義はここまで〜
【全体を通して】
服のしわなどがちゃんと書けているかどうかは、作家をみる上で大事なポイント。しわも情報になる。1コマあたりにキャラの情報をたくさん入れよう。
1話あたりでは、ストーリーの情報ばかりいれるのではなく、キャラの情報・ストーリーの情報・世界観の情報の3つを意識して入れていこう。
世界観(の中に、ノリや設定は入る)、どんなキャラか、どんな偉業を成すか、の3つをどれだけ早く伝えられるかが新連載では特に重要。
ツイッターも似ている。フォロワーの多い人は、キャラと世界観がアイコン・名前である程度過不足なく伝わり、ツイート(呟いてること)でもそれが一定している。名前・アイコン・呟いてる内容があってる、というわかりやすさは武器になるので重要。(※佐渡島さんのアカウントはそこがすぐ散らかるので、SNSに不向き)
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勉強になったねー!
画の演出系の話が中心だけど、情報をソリッドに、世界観はコンパクトにしてクイズを繰り返す、というのは文字も同様なので、自分みたいなwebの編集・ライター系も参考になる箇所が多かったよ。
次は平常運転でカスみたいなブログを投稿するからよろしくねー!
【Twitterとnoteもやってるよ】
https://twitter.com/moriri_nyo
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